習近平・プーチン2026年以後:制度化、東方再配線、日本のジレンマ(第4回)
安東での合意の意味
2026年5月19日、日本と韓国の首脳が韓国・安東で会談し、LNGと原油の供給、備蓄、石油製品スワップを含むエネルギー協力の強化で一致した。表現は抑制的だったが、前提は厳しかった。北東アジアの軍事的圧力の高まり、変動するエネルギー市場、外交の梃子となる重要鉱物の時代に、日本は同盟国と準同盟国の網で燃料と素材を守ろうとしている。ロイターの報道は、エネルギー安全保障と安保協力が重なる動きだと描写した。
この場面は日本の対ロシア戦略の輪郭を示す。日本はロシアを信用していない。それでも極東ロシアの資源から完全には離れられない。防衛、電力、半導体、磁石、港湾、備蓄、同盟が同じ地図上に収斂するなかで、日本の防衛線はもはや北海道北方だけに走ってはいない。サハリンのLNG契約、韓国との相互支援、米国との重要鉱物協力、豪州とカナダの鉱山、国内の産業基盤にまで延びている。
脅威としてのロシア、供給者としてのロシア
日本政府文書で、ロシアは経済協力で関係改善を図る相手という位置づけにとどまらない。防衛省の『防衛白書2025』は、ロシアがウクライナ侵攻を続けつつ、北方領土を含む日本周辺で活発な軍事行動を行い、中国との共同の航空・海上活動も確認されたと記す。日本にとってロシアは、中国と連動した複合圧力の源であり、北からの直接的な脅威である。
それでも日本はロシアとの経済的接点を断ち切っていない。理由はサハリンである。資源エネルギー庁の『エネルギー白書2024』は、2023年の日本のLNG輸入の約9.3%と総発電量の約3%にサハリン2が相当し、日本がサハリン1・2の権益維持方針をとると記す。サハリン1は原油でも、中東以外の希少な供給源として価値を持つ。日本の中東依存は依然として高い。
この方針は整然とした物語にはならない。日本はG7の一員として対ロ制裁に参加し、ウクライナ支援を続ける。同時に、極東ロシアの資源権益を維持して電力と燃料の安定を守る。ロイターも、経済産業省が海外エネルギー、とくにサハリン1を日本のエネルギー安全保障に重要だと説明したと伝えた。
日本のジレンマはここにある。ロシアは安保上の脅威である。他方でサハリンは電力と燃料の安定に直結する。過度な依存は政治的な弱点になるが、拙速な断絶は価格や調達、予備の発電余力に跳ね返る。日本の選択はロシアへの迎合ではない。危険な隣国から必要最小限のエネルギーは受けつつ、その依存を恒常化させないというリアリズムである。
北方領土を超えるロシア問題
日露関係はかつて、北方領土、平和条約、エネルギー協力の三軸で整理しやすかった。いまやその枠組みでは足りない。日本の対露観は、中国、台湾海峡、朝鮮半島、北極海航路、LNGと原油の市場、重要鉱物、半導体素材、防衛産業のサプライチェーンと重なっている。
外務省は依然として、四島の主権問題の解決と平和条約締結という基本方針を掲げる。外務省の立場は、日本外交の継続性と、領土問題の棚上げ拒否を示す。他方で安全保障の領域では、ロシアは北方領土交渉の相手にとどまらない。日本周辺で軍事活動を継続し、中国と行動を調整し、サハリンの資源を握る国家である。
この二面性は日本の政策を曖昧に見せる。しかしその曖昧さ自体が戦略として機能する。日本はロシアと和解しようとしているのでも、全面撤退しようとしているのでもない。脅威認識を保ち、広い制裁枠組みを維持し、エネルギー供給の崩壊を防ぐ。自前資源に乏しい島国にとって、この設計は居心地が悪くとも避け難い。
重要鉱物が新たな防衛線になる
対露依存の固定化を避けるには、エネルギーだけでなく素材の供給網も再設計しなければならない。内閣官房の『国家安全保障戦略』は、経済力を安保政策の基盤に位置づけ、日本がグローバル供給網に不可欠な高付加価値の財・サービスを供給する役割を強調する。軍事と産業を別領域として扱わない考え方である。
経済産業省の『通商白書』関連資料も、特定地域への集中が生む重要鉱物供給網のリスクを指摘する。2026年には、ニッケル、リチウム、蛍石、黒鉛、重希土などの供給網を強化する政府支援プロジェクトが動き、豪州、ブラジル、カナダ、ナミビアが調達先として前面に出てきた。経済産業省の資料は、資源外交が防衛政策の一部になった現実を示す。
この動きは中国リスクに直結する。2026年5月、ロイターは中国税関データを引用し、ジスプロシウム、テルビウム、酸化イットリウム、ガリウムの対日輸出が事実上停止したと報じた。これらは磁石、航空宇宙、防衛、半導体に関わる。2010年の尖閣事案時のレアアース輸出規制を想起させる。
日本の課題はロシアだけではない。エネルギーではサハリンを容易に切れない。重要鉱物では中国の加工・輸出能力に晒される。一方を切っても安全にはならない。対露依存を減らしても対中依存が残れば別の絞めどころが残る。対中依存を減らしてLNGや原油の調達が不安定になれば国内産業が傷む。日本の政策は、単一の相手を遮断するのでなく、複数の依存を同時に薄める方向へ進む。
同盟で供給網を厚くする
日韓のエネルギー協力はその答えの一つである。両国は資源輸入国であり、LNGと原油の価格変動、中東の不安定性、シーレーンのリスクに脆弱である。備蓄や石油製品スワップを含む協力は、危機時に相互の余力を活用する仕組みになる。歴史問題を抱える隣国同士でも、燃料と電力の安定は感情だけで扱えない領域になった。
米国との協力も軍事同盟だけでは説明できない。重要鉱物、半導体、防衛装備、エネルギー技術の供給網を再接続することは、台湾海峡や朝鮮半島の危機に備えると同時に、平時の産業競争力を守る。豪州はLNGと鉱物、カナダは鉱物とエネルギー、ブラジルとナミビアは資源の多角化で重要である。日豪、日米、日韓の枠組みは、首脳声明だけでなく、電力会社、商社、鉱山、港湾、保険、金融によって現実の防衛線になる。
重要なのは、これは単なる「脱ロシア化」ではないという点である。日本はサハリンの権益を維持しつつ、サハリンが使えなくなる、価格が急騰する、制裁が一段と強まる、中国が素材輸出を止めるといった事態も同時に想定する。供給網の再設計は、調達先を一つ増やす作業ではない。燃料、鉱物、加工、輸送、備蓄、金融、外交を統合する危機管理である。
日本のリアリズムの結論
本稿は、日本の対ロ政策が感情ではなく構造に縛られていることを示す。ロシアは危険な隣国であり、北からの軍事圧力の源であり、中国と結びついた地政学的要素である。他方でサハリンは日本の電力と燃料に結びついた供給源であり、拙速には消せない現実である。
日本の進路は、全面対決でも全面撤退でもない。表ではG7に歩調を合わせ、ウクライナ侵攻を受け入れず、北方領土と平和条約に関する方針を維持する。その裏でサハリン1・2の権益を確保し、韓国とLNG・原油の相互支援を進め、米国、豪州、ブラジル、カナダ、ナミビアなどと重要鉱物の供給網を厚くする。
結論はここに収斂する。ロシアが重心を東へ移す時代に、日本はロシアを単なる敵にも単なる資源供給者にも見なせない。必要なのは、ロシアか中国のどちらにも喉元を握らせない供給網を築くことだ。防衛はミサイルや艦艇だけではない。電力、LNG、原油、磁石、半導体、鉱山、港湾、備蓄、同盟を束ねる生存戦略である。
